日本随一の平野、関東平野に位置する首都・東京。今を去ること16年前に上京した私は、この街の坂の多さに驚きました。しかし。それら一つ一つの坂にはそれぞれの歴史と味わいがあるのです。坂道の権威(日本坂道学会副会長。しかし会員は会長と副会長の2名のみ)、タモリさんがその魅力をググーっと凝縮してまとめた1冊です。
・タモリ『タモリのTOKYO坂道美学入門』(講談社)
タモリさんの前書きの書き出しは「東京に初めて来て感じたのは、なんと坂の多い所だということだった」。まったくその通りです。私の故郷は新潟県新津市(現在は新潟市秋葉区)。街の南には緩い丘陵があって、その丘の上に私の通った高校があるのですが、それ以外は一面の田んぼ。商店街のある市街地も平坦で、坂道はありません。ところが東京はというと、至る所にアップダウン。天気の好い日、ちょっと気が向いて練馬区内のアパートから自転車で早稲田に向かうことがありました。そんなとき、東京の地形がつぶさに分かりました。ペダルの重さでわかる山や谷。電車ではそこまではわかりません。その後、「これはちょっとないだろう」というたいへん急な坂の上にあるマンションにも住んだことがあります。いわゆる目白台の台地でしたが、通勤や買い物など、坂の下に降りる必要があまり無い立地だったのが幸いでした。
目白台付近もそうですが、とりわけ山手線の円内は坂道の宝庫。入り組んだ台地と谷、そのはざま。旧い東京の街は故在る坂道が多いのです。本書では、それぞれの坂ごとに、タモリさんの撮った写真、その坂を中心とした名所旧跡の散歩ガイド、喫茶店や博物館、名物を売る店などの「お立ち寄りSPOT」で構成されています。一読すればその坂道の歴史がわかり、散策したような気分になれること請け合い。説明文に記される、タモリさんの思い出話や蘊蓄も楽しいばかり。さらには坂道ごとに「勾配(がきつい)」「湾曲(が大きい)」「江戸情緒(が漂う)」「(名前の)由来(がある)」という評価ポイントも、★5つを満点として示されています。この基準、タモリさん独自の「よい坂」の条件なんですね。しかしタモリさんが過去に坂道の魅力や鑑賞ポイントの話をした際に「興味を持ってくれたのは、たった一人だけだった」そうです。私に話してくだされば…。他にも「鉄道」とか「地図」とかの話でも盛り上がったはずなのに。
東京初心者には、江戸時代以来の街の歴史を繙いてくれる良きガイド。そして東京生まれの東京育ちの方にも、「馴染みのない街」への散策の友として。地図の好きなあなた(私がそうです)や街並みの好きなあなた(これも私のことです)にもぜひ。そうそう、収録されている坂道の写真というのも、ほんといいんです。その坂の特徴を踏まえた構図と明るさ。私の以前住んでいた街の坂の写真など、「そうそう、この感じ、このアングル」と思いました。オールカラーで紙質もよいのでおトクです。
投稿者 近野宏明