#144  訓練

(2007/03/14)


 

 高知空港での胴体着陸事故。国内では滅多に無い重大な事故に、報道フロアも騒然となりました。私は「日テレNEWS24」のスタジオに入って、加藤亜希子キャスターの横で解説を致しました。10時54分のランディングも、祈りをこめて生の映像を見ながらの放送です。火花を散らした機体が滑走路を真っ直ぐに滑り、ようやくその動きを止めたとき、報道フロアからは拍手が。誰もがひとりの人間として、乗客乗員の無事を祈っていたことが分かる、温かな拍手。私も歓声を聞きながら、心底ほっと致しました。

070314_シミュレーター1.jpg水曜日。不具合のあった前輪(前脚)はどのような仕組みで下ろすのか、シミュレーターでの模擬フライトを体験しました。自動で前輪を下ろすレバー、それがうまくいかないときのバックアップシステム、事故翌日だけに、シミュレーターといえど手を触れるのは緊張します。バックアップシステムも多様なものがありますが、このシミュレーターでは、長さ50センチほどの金属棒を使って、ポンプの様に圧力を与えることで前輪を下ろします(事故機は違う仕組みです)。そのポンピング回数は150回以上(!)とのこと。飛び続ける機体、狭いコックピットの中での、全身を使った作業となります。驚きです。

 そしてベテランパイロットの操縦による、胴体着陸。事故と同様に前輪が出ない状態で、滑走路に進入します。シミュレーターは前方の映像はもちろん、機体の動きや重力も実機同様に再現します。スピードを落とさないと接地衝撃が大きい、しかしスピードを落とすと風の影響を受けやすい。相反する条件下、機長は両手両足を常時動かして、機体の安定を図っています。休まるヒマなど全く有りません。後輪(主脚)の接地…そして機首を下げると…ガツン!という下からの強い衝撃とともに、ガガガーっと滑走していくのです。カメラマンも思わず「おおーっ」と声を上げます。
070314_シミュレーター3.jpg3回の訓練はいずれも「無事着陸」でしたが、訓練、しかも横に座っているだけであっても大変な緊張を強いられました。あとで映像を見ると、機長の表情も幾分強ばっています。しかしただ停止しただけでは終わりません。実機の場合には、出火が無いかの確認・処置、けが人の有無を確認・対処、地上スタッフとの連携での脱出判断、などやることは沢山あるのです。そのすべてに最終責任を負う、機長という職の重みを痛感いたしました。

 こうした訓練を積んでいるがゆえに、事故機の機長が着陸を成功させたのは、いわば当たり前のことなのかもしれません。それだけに、操縦する者のスキルが確実であれば、今度は機体の安全性・確実性が問われるわけです。今回の事故機はとりわけ脚部にトラブルが多いという指摘もあります。万一の際にも、研鑽を積むパイロットの技量を十二分に生かせるよう、徹底的な原因究明が求められます。

投稿者 近野宏明