・青山七恵 『ひとり日和』 (河出書房新社)
激しいクライマックスや、鮮烈なドライブ感は、無い。声高な主張や、目を背けたくなるようなエピソードも。あくまで淡々と、まったりと、時間が流れ、結末らしきものを迎える。一生ものの定職もなく、やりたいことも、意欲もハッキリとしない20歳の女性の1年間。50も歳の離れた遠縁の女性宅での間借り生活。次の世界に羽ばたく前の「モラトリアム」というにも、外界に対していささか閉じている日常。
厳しいおとなは「甘ったれている」とバッサリ斬り捨てるだろう。山田詠美さんは選評で「日常に疲れた殿方にお勧め。私には、いささか退屈」と述べている。うん、山田さんの作品世界が基準とすれば、さもありなん。ただ、途中退屈を覚えるようなまったり感は、主人公とまったく同様なフリーター生活をしている人たちのみならず、若者たちが共感できる、いまの時代の気分、なのでは。あくせく働くには強烈な動機や自分の目指すものが見えない、衣食が足りれば背伸びをした贅沢もいらない、恋愛も相手の懐にどこまでものめり込むわけでない…。よくいえばどこまでも控えめ、穏やか。それが、やんちゃなおとなや奔放な若者文学の世代には物足りないのかと。
いっぽう、40代?と思しき母親、70代の女性が絡み合うことで、20歳の彼女が相対化される。主人公とは少し違った温度の女性からみた今どきの20歳、が浮かび上がってくるのだ。反対に、母親、老女の言動からは、単純に年齢に比例するわけではない、多様な「女性の生き方」も透けて見え、これまた興味深い。やわらかくてもろいミルフィーユのような多層性が、淡々と紡がれる日常からほんのりと見えてくる。あくまでほんのりと。
物語に明白な結末らしきものはない。むしろ「つづき」の存在を感じるぐらい。いつかこの主人公の「その後」を読める時がくるのだろうか。昔ながらのありきたりな「成長」ではない、いまどきの「成長」をしていきそうな気がするが…。
投稿者 近野宏明