#116  夢と大往生

(2007/01/08)


 

 「夢」を抱き続けて生涯を終えること。ひとはどれだけの夢を抱いて人生を終えるのか。不運にも夭逝した場合には、果たせぬ夢をいくつも抱えてということが殆どでしょう。いっぽうで天寿を全うした場合は?…そんな疑問に夢のある答えを示した経済人が亡くなりました。日清食品創業者の安藤百福氏です。明治生まれの享年96。世界の食文化に大きな影響を与えての大往生でした。我々報道に関わる者も、よくお世話になる食べ物が即席めん。泊まり勤務や厳寒の事故現場などで、熱々のめんに救われることが何度もありました。

070108 鹿児島市電チキンラーメン.jpg安藤氏が亡くなったのは先週5日。正月2日には幹部社員と大好きなゴルフを楽しみ(!)、前日には新年の訓辞を行っていたそうです。亡くなる直前まで仕事をしていた氏が「チキンラーメン」を開発したのは48歳のとき。「カップヌードル」の登場は1971年、安藤氏はすでに還暦を超えていました(意外に新しい商品なんですね)。つまり「安藤氏といえば即席めん」という公式は、一世紀近い人生ではむしろ後半生のこと。安藤氏にとっての戦前・戦中は、成功と富、挫折と苦境が怒濤のように訪れる、毀誉褒貶に富んだ時期だったようです。

その安藤氏の晩年の大きな「夢」が宇宙食。「スペースラム」なる宇宙食ラーメンの発表会は05年の夏に行わました。会場は池田市の「インスタントラーメン発明記念館」。安藤氏の夢の結晶たる建物です。取材に行くと、会見には安藤氏も登場。立志伝中の人物を目の当たりにできるのはこの仕事の特権です。美味しそうに試食すると、安藤氏はさかんに「夢」という言葉を繰り返し、我々に向かってにっこりほほえみました。「この年になると自分の仕事に感動することは少ない。だけどきょうは(大勢の記者が)絶対来てくれると。感動した。この雰囲気がありがたい」と我々に語った安藤氏はこのとき95歳。夢を叶えたたしかな自得が伺えます。こんな率直なことばにも、人生がにじむものですね。

こんなご時世だからこそ、「夢」のもつ力を信じたくなるもの。後半生にどんな夢を追い続けられるか。誰の目にも紛うことのない、見事な道しるべを示しての大往生と言えましょう。

*写真は鹿児島市電の「チキンラーメン電車」(06年9月撮影)。長崎などにも同様のラッピング電車があるようです。

投稿者 近野宏明