「黄金の秋」と「冬将軍」

(2006/11/01)


 

10月のモスクワは、本当に寒暖の差が大きい。
上旬は、朝晩の気温が+10度ほどだったのだが、31日には-5度まで冷え込み、
街はうっすらと雪化粧した。
モスクワでは秋の服装を楽しむ時期が極端に短く、薄いコートなど持っていない人が多い。
みなセーターなどを着込み、防寒体制に入った。

さて、今回は短い秋の風物詩について。モスクワも秋は紅葉が広がり、
Золотая Осеньザラタヤ・オーシン(黄金の秋)と呼ばれる。

市内の南東部にカローメンスコエという大きな公園がある。
イワン雷帝やピョートル大帝が別荘を建てたところだが、8月から10月上旬にかけ、
全ロシアやCIS諸国から1000軒もの蜂蜜売りが集まって、競うように店を開く。

蜂を特定の花や樹木に放して蜜を収穫するので、種類は本当にさまざまだ。
アカシアやバラの蜜は香りが素晴らしいし、
オレンジやクリの蜜はほのかに果樹と同じ味がして不思議。
品種だけでなく、地域や店によっても味覚に違いがあるようだ。
試食を繰り返すのだが、次第に舌がおかしくなる。
日本でも果物や漬物を産地別に集めて味わう、こうした収穫祭があっただろうか。

最も有名なのは、ロシア南部バキシリヤ共和国の菩提樹の蜂蜜。
うすい黄色で、素朴な甘さが口の中に広がる。
値段は500グラムで150ルーブル(約600円)。紅茶に入れても楽しめそうだ。

この蜂蜜市が終われば、モスクワは一気に冬に向かう。
冬将軍は英語でGeneral Frostだが、
ロシア語も同じでМороз Воеводаマロース・ヴォイェヴォダ(厳冬の司令官)と言う。
もう、すっかり到来したと思っていたのだが、ロシア人にきくと
-20度にならないと冬将軍到来とは言わない。」と話してくれた。


ロンドングラード

(2006/10/22)


 

 モスクワから年に一度、健康診断のためロンドンに出かけているが、
ロシア人の多さには驚かされる。
 ロンドンに住むロシア人の数は30万人にのぼる。
この5年間で3倍に膨れ上がったという。(ちなみに日本人は3万人程度)
もちろんロシア人向けのラジオ放送も新聞もある。
 
 ロンドンで100万ポンド(約2億2300万円)を超える大邸宅のうち、
5軒に1軒はロシア人が所有
している。
 プレミアリーグ「チェルシー」のオーナーで、
世界一の大金持ちといわれる石油王・アブラモビッチもそのひとりだ。

 こうしたロンドン在住のロシア人たちの暮らしぶりを、
先日、モスクワのテレビ局が特集していた。
 番組の名はロンドングラード(グラードはロシア語で市)。
「この街は、我がロシアのもうひとつの首都である。」というナレーションで始まった。
 郊外にプール付きの大邸宅を構え、上流階級のパーティーに参加し、
休日はポロを楽しむ。
子供は、授業料が年間5万ドル(約600万円)もする特別なカレッジに通わせる。
将来の人脈作りのためだという。
 新しくオープンした高級中華レストランのロシア人オーナーは言う。
「ロシア人に能力があり、世界で成功することを証明したいのだ」と。

 それにしても、なぜロンドンに目が向けられるのだろうか。
 どうやら、ロンドンでは、海外で稼いだ金を持ち込んで暮らしても課税の対象にならないらしい。
 原油価格の高騰で、巨額なオイルマネーを手にしたロシア人にとって、
ロンドンは願ってもない場所なのだ。


急成長と閉塞

(2006/10/08)


 

モスクワに赴任して1年半が過ぎた。
街では外国車が広い道路を埋め尽くし、大渋滞が続く。
車が売れ過ぎて生産が追いつかないらしい。
 郊外には超大型スーパーが林立し、15年前のソビエト崩壊時の物不足がウソのように、
家族連れが何でも買える幸せを楽しんでいる。
 ロシアは原油高騰を追い風にした空前の消費ブームに沸きたっている。

 だが、豊かな消費生活に関心が集まる一方で、ロシアは着実に逆戻りをはじめている。
 88年ゴルバチョフ政権にはじまった情報公開=グラスノスチは、
エリツイン政権に受け継がれ、2000年までは言論の自由が保障されていた。

 だが、プーチン政権になってからはメディアの統制が強まっている。
もっとも影響力を持つテレビは、第1チャンネル(51%以上の株を国家が持つ)、
ロシアテレビ(国営)、NTV(51%の株を国営企業ガスプロムが持つ)とも、
漫才やドラマ、映画など娯楽番組ばかり放送している。
エリツィン時代に盛んだった討論番組や風刺番組はいつのまにか消えてしまった。
政権を批判するアネクドート(小話)もまったく語られていない。

 エリツィン時代にあった自由と混乱は、ともに収束に向かい、モノいえぬ閉塞感が生まれた。
時代は繰り返すというが、エリツィンをフルシチョフにたとえ、
次のブレジネフの停滞をいまのプーチンに重ね合わせる人もいるようだ。

 ソビエト時代は、たとえ物不足でも、社会はどうなるのか、人間同士の関係はどうなるのか、
少なくとも人々は将来のことを真剣に考えていた。
だが、いまは消費のことばかり・・・。
うすっぺらな世の中になったと感じているロシア人は少なくない。