先ごろ、ロンドンで開かれたある会合。
英国駐在の外交官同士が、
こんなひそひそ話をしていたそうだ。
「ブットが帰国して大騒ぎだね」
「彼女か?あんなコラプト(腐敗)なのはいないぞ」
イギリスで話題のベナジル・ブット氏(54)。
パキスタン初の女性首相で、ことし、8年ぶりの帰国を果たした。

「BB(ビービ)」の愛称もある華やかなキャラ。
亡命生活中も、ロンドンを拠点に幅広い交流があったが、
良くない評判も聞く。
もともと汚職を問われて祖国を去り、
スイスではマネー・ロンダリング罪に問われる身。
金銭スキャンダルの臭いが消えないのだ。
帰国のその晩に起きた自爆テロでは
140人の尊い命が失われた。
パキスタン政府は、暗殺の危険を再三警告し、
ヘリコプターをすすめていたが、
ブット氏は聞き入れず、地上の練り歩きを強行、
最悪の結果を誘発した。

批判を受けたブット氏は
「待っていてくれた国民の前に
姿を見せない訳にはいかなった」と弁明。
現場で取材した私も、
もしブット氏が姿を見せなかったら
群衆の不満が治安部隊との衝突に
発展した可能性はあったと思う。
でもブット氏が、
市民をテロに巻き込む危険を承知で、
「凱旋帰国の演出」を優先したとも見える。
病院に犠牲者を訪ねたのも、どこか白々しい。
政治家は往々にして、表向きと実像が食い違う。
ブット氏のように派手で
大衆に人気があるタイプほど、
人物面の評価が低い例は多い。
しかし実像がどうあれ、
メディアを通じて大衆に訴える力は、
民主化闘争を仕掛けるのに何よりの素質だ。
ブット氏の場合はさらに、
海外の目を引き付けて民主化を後押しさせる
「広告塔」の役割も自認しているかに見える。
帰国の背景にはそもそも
ポピュラーなブット氏を利用して
不人気のムシャラフ政権にテコ入れしたい
アメリカ・イギリスの思惑がある。
欧米PR会社も一枚噛んだ巧みな広報戦略。
実際、英国スカイニュースは、
外報部長以下特別班で臨む異例の扱いだった。
「なぜ、今ブットなのか?」
の疑問への答えも見えてくる。
日本の政治を取材していた私には、
小泉元総理が田中真紀子氏を味方につけて
自民党を崖っぷちから救った構図とも
重なって見える。

核兵器とテロリストを同時に抱えた
パキスタンの政局は、アメリカと、
サウジなど周辺諸国の思惑もぶつかり、複雑だ。
ブット氏を評価するにも
ひとつの物差しでは計れない
苦々しいリアリズムに満ちている。








