決戦持ち越し!ブラウンVSキャメロン

(2007/10/08)


 

「おや、今年はちょっと違うな」

9月末、港町ボーンマスで開かれた
年に一度のイギリス労働党大会。
ブラウン政権になって「何か」が変わっている。
だがその正体はすぐにはつかめない。

前のブレア政権下では、去年も一昨年も、
会場に到着すると決まって何かこう、
「すさんだような」空気を感じた。
警備は異常なまでに厳重。
スタッフもピリピリしていて取材対応もすこぶる悪かった。
首相のスピーチを
会場の外のモニターで聴かされた事さえあった。

だが、今年はスタッフも少し柔軟だ。
外国メディアの場内取材チケットは限られていて、
日本の分は自動的にNHKに回っていたのだが、
担当者に懇願するとNNNも直前に入場を許された。

ブラウン首相が登場すると場内は総立ちで拍手。
生真面目路線が功を奏し
労働党の支持率を劇的回復に導いて今や救世主扱い、
解散総選挙前倒しの観測さえ出て
求心力が猛烈に高まっていた。

さてその演説は予想通り、
ジョークの一つもない堅物路線に終始。
内容は教育、医療、犯罪対策といった国内問題ばかりで
前任者のように華々しく外交を語ることもなく、
世界をリードする野心はうかがえない。

スピン=情報操作がお得意と批判されたブレア時代との決別。
それこそ、イラク戦争で失った大衆の信頼を
とり戻すテコとなっているのだ。

「いやいや本当はブラウンこそスピンの天才だ―」

保守党影の文化相、ジェレミー・ハントが
うんざりしたように批判していたのを思い出す。
「ブレアは見るからにパフォーマンス好きだが、
ブラウンは演技を演技と悟らせないで真面目に見せてるのがすごい」

タイムズ紙の政治部長も
「ブラウンはプライベートでは短気で近寄りがたいが、
テレビでは違うイメージを作ってる」と語っていた。

事実ならウワサどおりの相当な戦略家である。
党大会の空気が違って感じたのは、マスコミも含めて
彼のイメージ戦略の魔法にかけられていただけなのかも知れない。

その日は奇しくも日本の福田新政権の発足前夜。
「カリスマ性はないが政策通」「身内に厳しく秘密主義」
とのブラウン首相の評判は、
福田首相とも微妙にダブるのは興味深いが・・。

ブログ用ブラウン.jpg

そして、翌週の今月3日。
ブラウン効果に打つ手がなく、
もはやこれまでとも言われていた
野党保守党の若手党首、デビッド・キャメロンが
逆転のカウンターパンチを放った。

政治生命さえかかった党大会のスピーチを、
原稿なしで熱弁すること1時間。
衰えぬ政権担当意欲が大衆の心を動かしたか
ガーディアン紙の世論調査で保守党の支持率は
労働党と同率の38パーセントまで回復。
劇的ともいえる復活だった。

マスコミがブラウン一色だった時、
ロンドン経済大の専門家が言っていた。
「キャメロンが今あえて黙っているのは、
スピーチのインパクトを押し上げる作戦だ」
その通りになった。

結局、6日、
ブラウン首相は早期の解散総選挙を否定。
支持率の拮抗を受け、ギャンブルは避けた格好だ。

狡知の限りを尽くした二大政党の対決は、
来年以降に持ち越された。
キャメロン演説に先立って
保守党が打ち出した相続税減税政策が、
ブラウンのイラク段階的撤退本格化等のアナウンス効果を
上回ったとも指摘される。

前政権時代の悪名高き「スピン」は
敬遠されるかにも見えた英国政界。
だが、見えざる精緻なメディア戦略が
幾重にも張り巡らされ、
なおマスコミを翻弄しているように見える。