英国首相官邸、6月27日午後0時15分。
あと1時間と少しで首相はトニー・ブレアではなくなる。
いつものゲートからダウニング街に入ろうとすると警官に止められた。
特派員証を示し「取材だから」と説明しても
「ダメ、ロックアウト!」
隣を見るとチャンネル4の名物キャスター、
ジョン・スノーまで同じ憂き目にあっているから仕方ない。
首相が戻ってくるまでゲートは開けないつもりのようだ。
その頃、議会下院ではブレアが最後の党首討論に臨んでいた。
「・・・皆さんお元気で。これで終わり。ジ・エンド」
さらりと締めくくったブレア。
労働党のメンバーがいっせいに立ち上がり拍手。
保守党党首のデビッド・キャメロンも、一瞬迷いを見せたが
「仕方ない、俺たちもやろうぜ!」とばかりに立ち上がった。
与野党が恩讐を超えスタンディングオベイで見送る様子は
素直に感動を覚えるシーンだった。
午後1時15分、
議会から首相官邸に戻っていたブレアが
家族と共にナンバーテンのドアを開けて出てきた。いよいよお別れだ。
「あなた方と会えなくなっても別に寂しくないわ!」と
茶目っ気たっぷりで毒舌を吐く夫人に取材者たちも苦笑い。
その時、報道陣の背後から金切り声が響き渡った。
「トニー!私たちの前で謝罪して!」
イラクで命を落としたイギリス軍兵士の家族らである。
許可を得て制限区域内に入っていた。
ブレアはちらりと見やることもなく首相車に乗り込む。
ゲートを出れば反戦団体のプラカードが待っている。
大量破壊兵器が見つからなかったことで国民を欺いた形になったブレア。
メディアを通じた国民との近さが魅力だった彼にとって
言葉が信用されなくなったことは致命的だった。
ブレア時代に影を落とすもう一つの問題は、
上院議員推薦に絡む労働党への不正融資疑惑
“キャッシュ・フォー・オナー”である。
この日、官邸前を通りすがった
スコットランド国民党の下院議員アンガス・マクニールは怒っていた。
「おい、さっきのアプローズ(拍手)をどう思った?おかしいと思わないかい?」
この疑惑をロンドン警視庁に告発した張本人である野党の爆弾男は、
ブレアに拍手はふさわしくないと怒っているのだ。
実は先週、ブレアが現職首相として3度目の
事情聴取を受けていたことは後から明らかになった。
「ショーマン」「アクター」
皮肉も込めてそのメディアテクニシャンぶりを評されるトニー・ブレア。
北アイルランド和平、サミット温暖化合意、
幾多の実績が退任の花道を飾る一方で、
きれい事ばかりではすまない宿命も抱える。
官邸を出た首相車はバッキンガム宮殿に向かった。
ブレア劇場の最後の幕は、罵声と怒号の中に閉じた。

午後3時。
官邸前には新首相ゴードン・ブラウン(56)の野太い声が
スピーカーを通じて響いていた。
「新しい政府には新しい政策の重点がある」
ブレア流との決別を表明する。
過剰とも批判されたスピン=情報操作。
イラク戦争の傷跡に苦しむイギリス国民の間には
ブレア時代への疲れと嫌気が漂う。
英国経済拡大の立役者を演じた重量級首相の誕生。
対するはメディア戦略も巧みな弱冠40歳の若手党首。
イギリスは新たな時代に入った。
PS そんなブラウン政権を同時テロが襲った。
イラクの日常をイギリスに持ち込もうというのか?








