ロンドンの落書きに思う

(2006/09/23)


 

先週末、ビクトリア駅構内の一角に、人だかりが出来ていた。
覗き込んでみると大きなホワイトボードにこんな問いかけが見える。

「あと1分しか生きられなかったら貴方は何をする?」

ビクトリア駅1.jpgなんのことはない、旅行会社の宣伝用デモンストレーションだったが、ロンドナーはこういう催しにはすこぶるノリがいい。余白もないほど埋められた書き込みを眺めてみるとなかなか面白い。

「神にただ祈る」とか「罪の許しを請う」とかキリスト教国らしいものから、「ウマいものを食べる」「ピンクフロイドを聴く」なんてたわいもないコメントに混じって、
「ブッシュを殺す」「ブッシュを一度生かしてまた殺す!」
と強い筆致で書かれているのが目を引いた。誰が書いたか知らないが、ブッシュ大統領といったらイギリスでもすっかり「悪役」イメージが定着してしまっている。ブレア首相がついに1年以内の退陣を言わされてしまったのも「ブッシュのプードル犬」だとか批判されたイラク戦争への対応が遠因だ。

場面はかわって9月初旬、フィンランド・ヘルシンキで行われたASEMアジア欧州会議。
ブレア首相は欠席し、ブッシュ大統領も元々メンバーではないので当然姿は見えない。
でもフランスのシラク大統領やドイツのメルケル首相、日本の小泉首相、中国の温家宝首相など、
アジア・欧州の38カ国の首脳が軒並み揃い会場は厳戒態勢だ。

そんな中にもどこか和んだ空気が漂っているのが不思議だった。 
会議の合間、記者団の目の前を首脳たちがぞろぞろ通り過ぎていく。
どこへ行くにもピリピリしたムードが漂っていた2ヶ月前のロシアサミットの会場とは明らかに違う。

「アメリカが参加していないだけでこんなに平和なんだよな」会場ではそんな冗談も聞こえる。
9・11同時テロ以来、アメリカを中心とする主要国と、テロリスト、あるいは「テロ支援国家」との対立は激しくなる一方だ。ブッシュ大統領の行くところ、どこに行っても激しいデモと、うんざりするようなテロ警戒が待っている。

そんな中、最終日に採択されたASEM議長声明には日本がこだわる「拉致」への言及がすっぽり抜け落ちていた。G8サミットと違って中国、韓国も加わるASEMで「北朝鮮包囲網」を構築するのは難しい。
「アメリカがいないとこうなっちゃう」と冷ややかな見方もある。 
一筋縄でいかない今の国際社会の縮図をみるような思いだった。

「ブッシュは嫌い」というのは簡単である。でも、拉致や核兵器の秘密開発などを進める問題国家に国際社会はどう結束して臨むのか、ハッキリ示せない限りは「ブッシュ批判」もただの感情論だと切り捨てられてしまうだろう。
いっこうに見えてこない答えを探して、外交取材の現場では悩ましい日々が続きそうだ。