ホワイトハウスの賢者

(2006/10/05)


 

ワシントンDCに赴任して1年と10か月。
ホワイトハウス取材の要領もちょっとは分かってきたかも、と思うこのごろ。
9/11のテロ以降、主要官庁の出入りは異常なほど厳しく、
記者証取得には何か月も、記者によっては1年かかっても取れないケースも少なくない。
記者証さえ取得できれば、ホワイトハウス入り口で毎回セキュリティ・チェックを受けるものの、
記者会見場まではフリーで入れるので取材の幅は一挙に広がる。
邦人記者も苦労している人が多く、
早い段階で手に入れることが出来た私の場合、ラッキーだったと言える。

画面で見ると、深いブルーのホワイトハウスの記者会見場は立派に見えるかもしれない。
だが画面に映るところ以外にちょっと目を向けると、実は「古い、汚い、狭い」の3拍子がそろっている。
正確に言えば「・・いた。」
というのは、ブッシュ大統領の夏休み開始にあわせ、
リニューアルのための全面的な取り壊しがあったからだ。
きのうも見てきたが、会見場入り口には「作業員以外立ち入り禁止」の看板。
窓越しに見るとアスベストがいっぱい部屋の中に漂っている感じ・・。
しかも改築作業は何も進んでいないブッシュ政権だけに「ホントに復活するのか?」との
不安の声も米記者の間にはある。

最後の記者会見が行われた8月のある日、私は会見場の地下に入ることが出来た。
会見室の床の板を一枚めくると、そこからハシゴが垂直に下りている。
そのハシゴを下りてみると高さおよそ2メートルの狭い地下の空間。
上の会見室を支えるための木組みが縦横に走っている。
ちょっと珍しい体験なのでこれはニュースで放送したのだが、確かにタイル貼り。
放置されたモップには「swiming pool」の文字が!
かつてここは水をたたえたプールだったのだ。
この会見場は、評判の悪いあのニクソン時代に、プールのあった場所に作られたものだと言う。
そんな昔話を直に経験し、話すことが出来る貴重な記者がいる。

ご存じ、80歳を越えてなお現役バリバリのヘレン・トーマス記者である。
以前、ブッシュ大統領のことを「史上最低の大統領」と評価し、
3年間にわたって質問させてもらえなかった。
この話は逆に「逸話」として彼女の評判を高めた感もあるが、ホワイトハウス番記者の重鎮である。
古い会見場最後の日、記者席最前列に自分の名前入りのイスを持つヘレンは
米マスコミの注目の的。彼女を見る他のアメリカ人記者たちの眼差しは憧憬に近い。
「みんな彼女と記念撮影してる、これはチャンス!」と、つい私もパチリ!

08.07.2006 032.jpgヘレントーマス.jpg
(向かって左:阿部P 中心:ヘレン 右:筆者)。

ハッキリ言って、ヘレンは怖い(失礼!)。
アメリカン大学で過日催された討論会の取材に行った時、
テーマは「米メディアの現状を考える」ものだった。ヘレンもパネリストの1人として参加していた。
ある学生が、「どうしたらあなたのようにホワイトハウスの記者になれるのか?」と聞いた時のこと。
「好奇心です。学ぼうとする心、真実を追究しようとする姿勢です。こうしたことに興味があり、
高額な給料を望まず、1日18時間働きたいなら、是非おやりなさい」。
その表情は厳しかった。

そのヘレンはこの日、少し寂しそうだった。彼女に「最も思い出深い大統領は?」と聞くと、
即座に「ケネディよ」と懐かしそうに話し始めた。
アメリカを良い国にしようとした本物の大統領だった、と。

かたや今年になって「和解」(*ヘレンが大統領とWH番記者らが集まった宴会で
ヒラリーの物まねをしてウケた事がきっかけとの話)し、
約3年ぶりに再開されたブッシュ政権に対する彼女の質問は相変わらず厳しい。
そしていつも基本は同じだ。

「あなたたちは、なぜ、イラク戦争を始めたのか?」

・・・・・・アメリカのジャーナリズムは、まだ正常だ。


ペンタゴンの廊下

(2006/10/04)


 

先日久しぶりにペンタゴンに取材に行ってきた。

ペンタゴン

我々プレスがペンタゴン内の特定の場所で取材をする場合、
軍のしかるべき人による引率が
必要で、我々は常にその監視下に置かれている。
セキュリティでカメラ機材などの荷物チェックを受けたあと、
引率されて5角形の建物の中を
取材するブリーフィングルームへ向かってぞろぞろと歩く。
先導する軍人は特定のエリアに入ると『後ろ歩き』になり、
我々が妙な動きをしないか、
撮影禁止区域でこっそり撮影していないかなどチェックしている。
さすがに訓練された軍人だけあって、後ろ歩きも慣れたものと感心しながら歩いていくと、
壁に歴代国防長官や司令官の写真や肖像画が延々と飾ってある廊下にさしかかった。

写真は戦争映画のワンシーンを切り取ってきたかのようなかっこいい写真ばかりで
司令官はまるで俳優のよう。
これを見ただけで普通の人はアメリカは正義の味方だと思ってしまう。
さらに目を引いたのは入隊募集や軍に関するイベントのポスター。
これまた映画のポスター並の凝ったつくりで、映画「トップガン」のイメージを
今風にさらにかっこよくしたようなポスターが目白押し。
日本の自衛官募集のやぼったいポスターとはえらい違いだ。
笑ったのは映画「TERMINATOR」をパロった
「TRANSFORMATION」(米軍再編)のポスター。
同じのはTだけじゃねえかと思いつつも映画のイメージどおり
サイボーグっぽくて説得力があった。
デジカメで撮影して掲載したいところだったが、撮影禁止エリアの為断念。

何でもエンターテイメントにしてしまうアメリカらしいところだなと思いつつも、
アメリカが軍のイメージ戦略にかなり力を入れていることが伺えた。
あのような写真やポスターを見せられると戦争は皆トップガンのように
かっこいいものに見えてしまうし、戦争自体を美化することにもなりかねない。
しかしアメリカは視覚的なイメージが持つ力が世論をもつくり得ることを十分知った上で
イメージ戦略に力を入れているようにも思える。

イラク戦争終結の時、倒れたサダム・フセイン像を踏んづけて喜ぶ
イラク人の映像が全世界に流され、
プロパガンダではないかという憶測が流れたが、もしかしてと思ってしまった。


アメリカ人って・・・

(2006/09/26)


 

赴任から、およそ1年半。
アメリカ人が、合理的なのには驚かされます。
商品を買っても、気に入らなければ、
簡単に返品できますし、
リンゴの皮をむく機械、
オレンジを4つ切りにする機械などなど
「楽できる所」は、合理的に、
そして、徹底的に手を抜きます。

その中でも、いまだにギョっとするのが
スーパーでのアメリカ人のある振る舞いです。
ある暑い日。
とあるスーパーで、精算しようと、
レジに並んでいると・・・
前の女性が、突然、
カゴの中に入っていたアイスを食べ始めました。
まだ、支払いを済ましてないのに、です。
私の混乱をよそに、彼女は、レジに進み
食べ終わったアイスの棒を差し出して
「食べちゃったけど、これも」
レジの人も、何ともない様子。

私は、仰天。
なんで、お金を払っていないものを食べちゃうんだろう。
その後、ワシントンだけでなく
出張先や旅行先など様々な場所で、同じ光景を目撃。
ついに、耐えきれなくて、アメリカ人の友人に聞いてみると・・・
「どうせ買うんだから、先に食べてもいいじゃない?」

きょう、日本では、安倍内閣が発足しました。
日米関係に大きな影響はないというのが
外交関係者の見方ですが
ブッシュ政権内からは
安倍新総理に対する不安の声も、ちらほら聞かれます。
同盟関係の強化が進むなか
アメリカと交渉する機会も増えていくと思いますが、
幼い頃から、合理的な考え方を
徹底的にたたき込まれたアメリカ人を相手に、どう闘っていくのか。
新政権の外交能力に期待したいと思います。