警護官
「大統領、お時間です!」
フジモリ氏
「それではみなさま・・行ってきます」
9月22日午前、フジモリ元大統領の身柄がチリの自宅からペルーに
移送された。三女の娘サチが作った手作りのサンドイッチをゆっくり食べてから、
警護官に付き添われ、待機していたチリの軍用ヘリに乗り込んだ。元国家元首
として毅然と振る舞いながらも、いつもの笑顔を絶やさなかった。ペルーに戻るのは
日本に亡命して以来、実に7年ぶりのことだ。
【三女のサチさんと】
フジモリ氏を巡っては大統領在任中に人権侵害や汚職に関わっていたとして
ペルー政府がチリ政府に身柄の引き渡しを要求、1年半以上にも渡ってチリの
最高裁判所が身柄を引き渡すかどうかの審理を続けていた。7月11日、チリ
最高裁が出した最初の結論は、ペルー政府が提示したすべての容疑について、
フジモリ氏の関与を裏付ける証拠はまったくない、というものだった。その後、
ペルー政府が異議申し立てを行い、9月21日チリ最高裁が最終的に出した結論は、
13の容疑のうち、7つについて、フジモリ氏の関わりが濃いという、1回目とは
まったく逆の判断だった。1回目が真っ白、2回目が真っ黒の逆転判決だった。
フジモリ氏の関与が濃いとされる主な容疑は、90年代はじめペルーの軍の特殊
部隊が左翼ゲリラ鎮圧のため掃討作戦で、民間人25人が巻き添えとなったバリオス
アルトス事件とラカントゥータ事件、そしてフジモリ氏の側近に1500万ドルを不正に
支払ったといわれる公金横領事件。当時、ペルーはテロの嵐が吹き荒れ、リマは
市内でも危なくて歩けず、大統領官邸にですら頻繁に銃弾が撃ち込まれるような
ご時世だった。事件のあったバリオスアルトスは、大統領官邸の真裏の住宅地区で、
テロリストが潜伏しているという情報を受けて特殊部隊が突入し、たまたま不幸なことに
民間人が巻き添えになった事件だ。この事件についてフジモリ氏は、民間人を虐殺せよと
命じたことは一切なかったと、容疑を否定している。
【民間人が巻き添えとなったバリオスアルトス事件の現場@リマ市内】
また側近に1500万ドルを不正に支払ったといわれる公金横領事件については、
フジモリ氏自身、身に覚えのないことで、自分で調査した結果、そのお金は、
側近には届かず、間一髪、ペルーの諜報機関のところに留め置かれ、事なきを
済んだと話している。
フジモリ氏の疑惑の証拠をつかもうと、ペルー政府はこれまで、アメリカの有名な
調査機関「クノール」に膨大な金をつぎ込んであれこれと調査させてきた。ところが
クノールの調査結果は、「疑惑を裏付ける証拠はない」というものだったという。
疑惑を裏付ける証拠がないことは、ペルー政府自身がよく知っている。それなのに、
なぜ、ペルー政府は躍起になってフジモリ元大統領を裁こうとするのか?
そこにはペルー特有のお国柄、独特の権力闘争が背景にあるといわれる。
ペルーは「何でもありの国」と表現する人がいるように、時の権力者が、行政機関や
裁判所、そして軍までをも掌握するお国柄だ。フジモリ氏は大統領時代、ハイパー
インフレを沈静化させペルーの経済を立て直し、またテロを根絶し、貧困問題に取り
組んできたことでも有名だ。あのペルーの日本大使公邸事件では自ら陣頭指揮を執り、
日本人人質24人を全員に無事解放させたことも記憶に鮮明に残っている。
政権後半期には独裁に走ったとの批判もあるが、ペルーの権力構造をある程度知る
ひとなら、状況は理解できるはずである。フジモリ派が議会で5番目の勢力を維持し、
貧困層を中心に根強い人気のあるフジモリ氏に3年後の大統領候補として再登板を
求める待望論があるのも事実だ。この状況を時の権力者が好ましいと思うはずがない、
と説明する人は多い。
同日午後(9月22日)、リマの空港周辺にはフジモリ支持するグループと反対グループが
集まり、フジモリ氏の到着を待ち構えていた。小競り合いになる場面もあったが、結局、
フジモリ氏を乗せた飛行機は予定されていた空港には着陸せず、直接、ペルー国家警察の
施設へと向かった。ペルー政府は混乱を避けるために、あえて人目につかないようにした、
と説明するのだが、フジモリ氏の存在と国民の反応が気になるのは確かなようだ。
【左:フジモリ氏の到着を待つ支持者、右:フジモリ氏が拘束されているペルー警察の施設】
12月10日、フジモリ氏に対する公判がペルー最高裁ではじまる。検察はフジモリ被告に
対し、殺人罪などで禁固30年を求刑している。こうした中、日本では「フジモリ氏に公正な
裁判を求める超党派の議連が発足した。会長は自民党の山崎拓、このほか民主党の
前原誠司副代表、公明党の東順治副代表ら、これまでに93人が名を連ねている。
来年春にはガルシア大統領の訪日も予定されているが、裁判の行方次第では、日本から
ペルーに拠出しているODAの扱いも再検討せざるを得ない、とかなり強きの姿勢だ。
26日から始まるフジモリ裁判には、超党派の議連からも傍聴に駆けつけるという。
「フジモリ」をとりまく環境は、フジモリ氏個人の身の処し方だけではなく、大統領選挙を
にらんだペルー政党間の攻めぎあい、さらには日本政府をも巻き込んだ新たな外交問題へと
発展する様相を見せている。





















