「やはり現れなかったか・・」
世界から集まった200人の報道陣から一斉にため息が漏れた。
12月2日、ハバナで10年ぶりに行われた大規模な軍事パレード。
この場に療養中のカストロ議長が姿を見せるものと期待が高まっていたからだ。
このパレードはカストロ議長らが革命闘争を始めてから50周年を祝うもので、
キューバは国家の威信をかけて準備を進めてきたものだ。
この歴史的な国家イベントにカストロ議長本人が出席しないことは、
カストロ議長の政権復帰がもはや不可能であることを内外に示すことに他ならない。
この独裁国家が50年近くも続いて来られたのは
カストロ議長のカリスマ性があったからだ。
キューバといえばカストロ、カストロといえばキューバなのだ。
カストロ議長の姿は10月下旬のビデオ映像以来、絶えたままで、
既に死亡しているという未確認情報もある。
カストロ議長がいなくなればこの国は一体どうなってしまうのだろうか?
ハバナ市内をはじめて訪れると、観光化されていない古い町並みや、
底抜けに明るい市民の表情、どこからとも流れてくるサルサのリズムに
たちまち虜になってしまう。
しかし取材を続けるうちにこの国の見てはいけない部分が次第に見えてくる。
国民の平均月収は2200円と貧しい。
アメリカの経済制裁により、十分な医薬品や食料がない。
仕事も個人が自由に選択できず国家が決める。
もちろん国外には自由に出られない。
日本のような島国なのになぜか海産物が少ない。
船で亡命しないように漁師の数は限られ、厳しく監視されているからだ。
中南米ではことし左派政権が続々と誕生し、「反米」の嵐が吹き荒れている。
カストロ議長をもり立て、自らの政治力に利用しようというベネズエラの
チャベス大統領もいるが、貧しいキューバ国民の目にはそのような政治的な
動きもむなしく映る。
一党独裁政権の下、まず自分たちの生活を維持し、どう生き抜くかが何よりも大切だからだ。
こうした「反米」の流れに逆行するように、
キューバでは、敵国アメリカとの関係改善を模索する動きが始まっている。
アメリカの経済制裁が解除されなければ、これ以上、
国家体制は維持できないという追いつめられた状況にあるのだ。
共産革命、冷戦時代と激動の歴史を乗り越えてきた独裁国家キューバは
再び新たな時代のうねりに突入しようとしている。








